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ウランガラスよもやま話し(1)
雑誌「鉄道ファン」2003年3月号に「日本で昭和の初め頃から戦争直前まで、機関車や電車用に作られ、「ゴールデングローライト」と呼ばれたと言う、ウランガラス(UG)を使った前照灯があった」という興味深い記事を大森潤之助さんが書かれています。
記事の中で、東京・神田の交通博物館に保存されている前照灯(ゴールデングローライト)の現物をUG同好会有志で見学に行ってまいりました。当館は2006年5月に埼玉県へ移転してしまうので、東京で見られる最後の機会でした。そういうお忙しい中、学芸課長さんに御願いして、機関車用と、電車用のゴールデングローライト2点を倉庫から出して頂き、見学しました。(2006年1月、写真撮影は高島会員)
注意!以下のUG前照灯2点は交通博物館の所蔵品で、これらの写真の複写転載を禁じます。HP管理人 |
こちらは機関車用のゴールデングローライイトで、反射鏡部分が黄色いことからUGと分かります。前についている檻は、雪や木の枝などを避けるものらしいです。
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前のガラス部分のフタをあけた状態。前のガラスがUGなのではなくて、後ろの反射鏡がUGとなっている。
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紫外線を照射したところ。反射鏡がUG特有の緑色蛍光を出している。直径=約30cm。
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上部に「ゴールデン・グロー・ヘッドライト、小糸製作所」との銘板があるが、年代は読めない。
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こちらは少し小型で、電車の前照灯とのこと。直径=約20cm。
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紫外線を照射すると、緑色蛍光を出す。
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交通博物館の機関車の前で、有志の記念写真。
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上部に「ゴールデン・グロー・フラッドライト、小糸製作所、昭和9年5月」の銘板がある。
同社の社史には「フラッドライトは操車場用投光器で、前照灯技術を転用した」とある。
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最後に、交通博物館と同じ場所にある昔の万世橋駅の構内を見学しました。
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構内の階段を上ると、万世橋駅のプラットホームが見えます。中央線電車に乗れば、神田と御茶ノ水の間に見えるはずです。
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上記の大森さんの記事の中で、「ゴールデングローライト」が取り付けられている機関車が、京都の梅小路蒸気機関車館(天皇のお召し列車)にある、ということで、京都の梅小路蒸気機関車館に行ってきました(2004/11)
ずらっと10台ほど並んだ蒸気機関車を一台ずつ、紫外線ランプで照射し、UGはどれかな、と探しました。結局、お召し列車のC58の後部灯のみがUGでした。上記の記事に出ているC51の前照灯もUGの色(薄い黄色)ですが、UGではありませんでした。
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京都の梅小路蒸気機関車館
お召し列車のC58 |
お召し列車のC58の後部灯
「ゴールデングローライト」(ウランガラス) |
ランプメーカーの小糸製作所(現在も営業)によれば、短波長の光がカットされ、透過力が優れていた、と言うことです。また、同社のデータが記載されていて、酸化シリコン=57%、ソーダ灰=18%、10分子硼砂=13%、炭酸カルシウム=5%、硝酸カリウム=7%、亜ヒ酸=0.7%、重ウラン酸ソーダ=0.4%、とのことです。
なお、UG製のゴールデングローライトは昭和2年(1927年)に開発されましたが、昭和16年(1941年)にウランが入手できなくなって製造中止となり、重クロム酸カリウムによって黄色に着色した(UGではない)「ゴールデングローライト」となった、とのことで、蒸気機関車館に展示されている汽車のうち、何個かは黄色い色でしたが、UGではなかったのは、そういう理由でしょう。
2) 「戦場に架ける橋」タイの機関車のヘッドライトにウランガラス |
そんな記事の後、UG同好会の中村会員がシンガポール駐在中に、タイ国のバンコクで、同じものを発見され、記事と写真を寄せられました。
「この蒸気機関車は、戦時中日本で製造されたC56(通称「貴婦人」?)と言う形式のもので、終戦まで「クワイ河マーチ」で有名な泰緬鉄道で兵員や物資の輸送に使われていました。もちろんマレー半島向けに改造され、例えばデフレクター(排煙板)等もありませんし、前面には西部劇にでてきそうなカウキャッチャーが取り付けられています。 当方からの照会に応じたタイ鉄道省によれば、「調査記録によれば、戦後国連が接収したものの内2両が後にタイ政府に払い下げられ、退役後バンコクの機関庫に保存されていたその内の一両が、化粧直しをしてバンコク中央駅の構内に展示されたものだ。同記録には前照灯及び後進灯は取り替えた記録はなく、オリジナルである可能性は極めて高い」と言っておりました。」
第2次世界大戦中、日本軍は、バンコクからシンガポールへ向かう幹線から分岐し、ビルマへ向かう泰緬鉄道の建設を突貫工事で進めました。この工事には、連合軍の捕虜や周辺国民など多くの労働者が動員され、飢えと過酷な労働、マラリアなどの伝染病により多くの犠牲者を出しました。バンコクの西130kmにあるカンチャナブリには、泰緬鉄道がクゥエー・ヤイ川(クワイ川)を渡る橋が建設され、これが日本軍の軍事物資の輸送を阻もうとする連合軍の標的となり、戦後、映画「戦場に架ける橋」で有名になりました。
タイ国鉄の線路幅は、日本の国鉄より狭いメーターゲージです。泰緬鉄道へは、メーターゲージに改造された90両のC56型蒸気機関車が送られ、戦後もタイ国鉄や周辺国で働いてきました。1979年に、このうち2両のC56が帰国し、C5631は東京九段の靖国神社に静態保存され(後述)、もう一両のC5644はタイ国鉄C56の特長である平らなキャブの屋根のまま、大井川鉄道で現役で活躍しています。
中村会員が撮影された「バンコク駅の日本製蒸気機関車C56写真」を掲載します。たしかに、前照灯が薄い緑色をしているようで、UGを使用していると思われます。(2003年3月)
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バンコク・ファランポーン駅のC5616(前方上部の前照灯がUG) |
後方写真(こちらの前照灯もUG?) |
上記のように、C56は日本から90両が送られ、そのうち9台が静態保管で現存しているそうです。
下記HP(英文)に「タイのSL一覧」があります。
http://www.internationalsteam.co.uk/trains/thaipreserved.htm
「ケータックス産業バンコク支局・調査部現地ルポ」という記事によると、
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ファランポーン駅構内(ホーム先端)・・・ここは状態が良好です。(上記写真) |
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バンコク博物館・・・何故かグレーに塗られ、施設内にも関わらず、ジャングルのようでした。 |
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カンチャナブリー・・・ここは観光地なので整備された地に保存されていますが、状態は良好とはいいがたい状態でした。塗装は綺麗にされております。 |
だそうです。
3) 靖国神社のSL(泰緬鉄道から里帰りしたC56) |
昭和11年に日本車両が製造し、南方に送られた90両の機関車の一台(C5631)です。泰緬鉄道で活躍後、戦後はタイ国鉄で使用され、昭和52年に引退し、昭和54年に靖国神社へ奉納されました。1階展示場(入場無料)では、点灯状態なので、明確ではありませんが、黄色いウランガラスのようには見えません。他の方の写真を見ても、前照灯も後照灯も黄色や緑色ではありません。「奉納する前に整備をした」ということなので、前照灯などを取り替えたのかも知れません。(2006年秋)
4) 大井川鉄道でUG灯発見!(タイから里帰りしたもう1台) |
SLのC56は160両が製造され、その内、90両が第二次大戦中にタイなどに運ばれ、その殆どが爆撃等で破壊されたものの、その内の2両が昭和54年、日本に里帰りしました。
その中の一台が大井川鉄道で保存されており、毎日営業運転している唯一のC56です。(車両番号はC5644)
前照灯は綺麗な状態なので、後で取り替えられたようです。
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後照灯はかなり錆びていて、昭和11年の製造当時のままのようでした。レーザーポインターを照射すると、鏡板が緑色の蛍光を出していました。
下車後、運転士さんに「銘板はあるか」聞きましたが、ありませんでした。 |
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昭和11年に製造され、北海道で5年間、更にタイで戦火をくぐりぬけ、日本に里戻りした、というSLとゴールデングローライトにお目にかかれました。(2014年5月)
前照灯にUGを使っていたのは、機関車だけではありません。名古屋の骨董商Sさんから「自動車ヘッドランプにもUGがある」とのことで、探して頂いたのが右の品です。1910ー20年代の英国製で、「NOTEK、FOGーMASTER」と彫ってあるので、自動車のフォッグランプです。幅23cmと大きく、前面のガラスが厚さ2cm位の黄色いUGです。UGを使うと、短波長の光がカットされ、透過力に優れるということなので、英国のように霧が多い国では、ぴったりのものだったのでしょう。
日本の機関車の前照灯は反射鏡がUGでしたが、英国の自動車のヘッドライトは前のガラス部分がUGで、反射鏡は金属でした。
(2003年6月)
「NOTEK」とは、ドイツ・ミュンヘンにあった有名なランプメーカーで、「Nova-Technik GmbH in Munchen Germany」とのことです。
また、ドイツ骨董店で聞いた話として「これと同じものはドイツ国鉄列車に取り付けてあった」ということです。いずれも、知人のベルギーの骨董商から教えて貰いました。(2007/11追記) |
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6) 誰が「ゴールデングローライト」と命名したのか? |
今までの調査で、日本、米国、欧州(ドイツ)で、ウランガラスを使った前照灯があることが分かりました。最初に誰が「ゴールデングローライト」と命名したのかは分かりません。下記の英文資料では、欧州で自動車用のヘッドライトに黄色いガラスを使って、これが金色に見えることから「ゴールデングローライト」という、いわば普通名詞になったのではないか?と書いています。
Glass Reflectors
Glass mirror reflectors are also used for
automobile headlights. These are generally
of the so-called "Golden Glow" type, which are made of a special
glass having a greenish golden color. The
light reflected by this lens is of a golden
hue and is claimed to penetrate a foggy atmosphere
to a much greater distance than a white or
violet light. The back of the reflector is
"silvered" in the same way as a
mirror. The source of light, of course, sends
out rays of all colors; but since the reflection
takes place at the "silvered" surface
at the back of the reflector, the reflected
light must pass through the glass, and in
doing so the violet and blue rays are absorbed,
while the yellow rays are reflected.Source:
The Gasoline Automobile by Peter Martin Heldt, 1918
The source also mentions that a company called
Esterline (later Esterline Angus Instrument)
made an automobile headlamp using a Golden Glow reflector. It would seem that “Golden
Glow” was used loosely to describe such
reflectors. (by Tim, USA, 2008)
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2010年に、米国の蒸気機関車の前照灯を、鉄道模型のクマタ貿易様より寄贈いただきました。本品は、同社の先代社長が米国人愛好家より入手され、「将来は模型博物館を作って目玉にしたい」と保管しておられた博物館級の品です。
この前照灯がウランガラスを使用していることを同社で偶然発見された当UG同好会のK.N氏が、同社より譲り受けていただき、我が家の玄関を数ヶ月占領しておりましたが、2011年3月に、岡山県の「妖精の森ガラス美術館」の所蔵展示品となりました。
この前照灯は、1900年から1920年にかけて米国で生産され、ニューヨークとペンシルバニアを結ぶDelaware, Lackawanna and Western Railwathys(通称DL&W鉄道又は Lackawanna鉄道)に納入された2-8-2型蒸気機関車(MIKADO型SL)の内の1台、車両番号2134号車の正面に取り付けられていた前照灯です
パネル写真では、前照灯に「2134」の数字があり、またテンダー(炭水車)にLackawannaの文字が読み取れます。したがって、この前照灯も約百年前に製造されたものと思われます。
後に、このSLがAlton&Southern Railway のSL-4381号車として使用されたので、前照灯の数字板も「4381」に書き換えられました。
寸法は、反射板直径34cm、電灯直径44cm、箱の高さ46cm、奥行き46cm、幅77cmもある巨大な前照灯です。車体番号4381が描かれています。今でも電球を入れると点灯でき、目のくらむような光が出ます。また、このほかに、前照灯のカバー(雨よけ)と、機関車の写真パネルが付いてきました。
前照灯のメーカー名は「The Pyle-National Company」と記載されています。同社は、1897年に、The
Pyle-National Electric Headlight Companyの名称で設立された鉄道用前照灯を製造する会社でした。当初は、蒸気機関車用の小さなタービン発電機でアーク式電灯を点灯する方式でしたが、1913年に、現在のような白熱電球式の前照灯を開発し、大成功を収めました。いつからウランガラスを採用したかは不明ですが、日本の小糸製作所がゴールデングローライトを開発したのが昭和2年(1927年)なので、ほぼ同時期(1920年前後)でしょう。
因みに、この機関車の車輪配置形式の呼称「MIKADO」は、機関車本体の車輪の配置を示す米国方式の呼称の一つで、日本の「天皇(帝)」に由来しています。これは、ボールドウィン社(Baldwin Locomotive Works社)で製造された車輪配置2-8-2(車軸配置1-4-1、なおテンダーは除く)の型の最初の蒸気機関車が、1897年(明治30年)、日本の鉄道省から、貨物列車牽引用のテンダー式蒸気機関車として発注を受けたことから来ています。MIKADO型の様々な蒸気機関車はアメリカで合計1万台以上が製造されました。日本の真珠湾攻撃以降、「マッカーサー」とも呼ばれていましたが、現在では元のMIKADOが一般的な呼称となっています(本項目は当UG同好会会員のN.T氏の寄稿)。
(以上、2010/12記事+2011/5追記)
米国SLの前照灯 |
左は自然光で撮影。右は紫外線照射時の撮影。
現在は岡山県の「妖精の森ガラス美術館」の所蔵展示品
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米国Lackawanna Railways.の2134号車(通称MIKADO型) |
左パネルを拡大すると、前照灯に2134の数字が見える。 |
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斜め前から見たところ
現在は岡山県の「妖精の森ガラス美術館」の所蔵展示品 |
真上から見たところ |
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後に、このSLがAlton&Southern Railway のSL-4381号車となり、前照灯の数字板が書き換えられた。
黒いガラス板に白字で描いてある。 |
数字板を跳ね上げると、中の配線等が見える。
現在は岡山県の「妖精の森ガラス美術館」の所蔵展示品 |
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上部にPyle-National Companyと浮き彫りされている
現在は岡山県の「妖精の森ガラス美術館」の所蔵展示品 |
反射板がウランガラスで、上の方に「Non-glare,
Made-in USA」と描かれている。 |
下部には「Chicago,USA」と製造番号らしき数字が見える。 |
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2014年に米国の鉄道愛好家(Rick さん)から「米国SLの前照灯を持っており、当HPを見ると、UGらしいが確認したい」とメールが来ました。当方の勧めでブラックライトの電球を取り付けた写真を頂戴しました。
また「UG製の米国SL前照灯のメーカーは下記の3つであり、自分は1番と2番を持っている」とのことでした。
3番のものは、ネットのオークションに出ていたもので、色が橙色なので、市街電車の前照灯かも知れません。(2014年2月記)
1)Pyle-National Company
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岡山県の「妖精の森ガラス美術館」が所蔵している前照灯と同じメーカーで、1913年に白熱電球式の前照灯を開発し、UGを採用したのは1920年前後でしょう |
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2)Sunbeam Elecrtiric Manufacuturing Company
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ここもUG製の前照灯を製造していたようです。ただ、これら2社は「ゴールデングロー」という銘板を付けていません。 |
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3A)Electric Service Supplies Co. of Philadelphia (ESSCo) |
「ゴールデングロー」はこのESSCoという会社の登録商標だったようです。"Golden
Glow"と銘板にあります。
日本の鉄道博物館の所蔵品(小糸製作所製)とほぼ同一サイズで、名称も同じなので、小糸製作所はここから技術導入したのかも知れません |
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3B)Electric Service Supplies Co. of Philadelphia (ESSCo)
Rickさんからは2017年に、SL用と書いてある大型前照灯の写真を頂戴しました。銘板には「Golden
Glow(1912年登録商標)」とあります。
また、反射板のガラスには「FRY, Golden Glow」とあり、後述のFRY社が製造したことが分かります。
2017年に米国のPaulさんから「『Golden Glow』は、Henry
Clay Fry が1902年に創設した『H. C. Fry Glass
Company』が、1912年に『Golden Glow』という黄色いガラスの商標を登録した。同社は、この商標を米国の3社(Apple
Electric Company, Esterline Electric Company,
Elecrtic Service Supplies Compan)に供与していた。同社は大恐慌などの影響で1926年に管財人管理下に入り、1933年に解散した」との情報と、商標登録記録を頂きました。
従って、小糸製作所もFRYから商標と、もしかするとガラス成分データも購入していたのかも知れません。
http://glassian.org/Fry/
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