ウランガラスの法的規制ほか
1)ウランガラスの法的規制 |
「ウランガラス(UG)はウランが入っているので、UGを持っていることで、法律上の問題はないのでしょうか?」という質問を時々、受けます。結論から言うと「法律上の規制は全くありません」。
下記の米国政府の公式文書で示されている通り、、市販されているウランガラスは、どんなものでも、身の回りに置いたり、身に着けても、健康に全く影響はありません。また、この規定は、大人も子供も同じです。
勿論、海外から輸入することも、国内で売買することも、何の法的規制もありません。
日本 |
「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)(ここをクリックすると原文が読めます)では、300グラム以下のウラン所有については、規制がありません。 |
なお、2009年に「ウラン又はトリウムを含む原材料、製品等の安全確保に関するガイドライン」が制定され、製造者に対しては指針として適用され、この中に「ウランガラス」という用語が出てきました。しかし、一般人にとっては法律上の規制がない、ということです。
米国 |
結論:米国の原子力規制では「ウラニウムが10重量%以下のガラス器は、公衆に対する放射能の影響がない」とされており「受領・所有・使用・移転の許可は不要」とされています。 |
文献1 | 10CFR40 「Domestic Licensing of Source Material」(核物質の許認可規定) (c) Any person is exempt from the regulation in this part and from the requirements for a license set forth in section 62 of the Act to the extent that such person receives, possesses, uses, or transfers(以下の核物質の許認可を免除する) (2) Source material contained in the following products: (iii) Glassware containing not more than 10 percent by weight source material; but not including commercially manufactured glass brick, pane glass, ceramic tile, or other glass or ceramic used in construction; |
文献2 |
NUREG 1717, June 2001."Systematic Radiological Assessment
of Exemptions for Source and Byproduct
Materials"(核物質などの放射線防護評価の免除規定) |
HP管理人より注記:
「ウランガラスの放射能について、公衆への影響はない」という上記の説明の理由は、下記によるものと思われます。
1)ウランからの放射線は殆どがアルファ線・ベータ線なので、放射線のエネルギーが弱いこと。
2)ガンマ線も多少出るが、割合が少ないこと。また、そのエネルギーは殆どが50KeV程度と、弱いガンマ線であること。
3)ガラスの中から出てくるアルファ線・ベータ線は、途中でさえぎられ、表面に出る割合が少ないこと。
4)現在のウランガラスに含まれるウランは0.1%程度と少ないこと。
5)ウラン自体は、ガラスに閉じ込められて、表面に流出しないこと。
2)ウランガラス放射能の測定例 |
西村会員から、放射能測定器「ガンマスカウト」で測定された結果を頂きました。 「1分間のパルス積算モードの結果、バックグランドは、α+β+γもβ+γもγも、9から12パルス/分でした。直径2.5cmのウランガラスのビー玉では α+β+γ=36パルス/分、β+γ=32パルス/分 、γ=13パルス/分 でした。一方、ピッチブレンド(閃ウラン鉱、カナダ産)では、α+β+γ=318パルス/分、β+γ=256パルス/分、γ=14パルス/分 でした。」とのことでした。 バックグラウンド=10とすると、ビー玉では、α=4、β=19、 γ=3、ピッチブレンドでは、α=62、β= 242、γ=4、となります。ピッチブレンドには、アルファ線を強く出すラジウムが含まれているので、数値が高くなります。(2003年4月) |
「妖精の森ガラス美術館」でお土産用に販売しているUG文鎮玉(直径5cm程)を測定してみました。(ベータ放射能)
(但し、昔のウランガラスは、不純物のあるウランを使用していたり、あるいは、1%以上のウランを入れていて、ガンマ線が測定されるものもあります)(2010/6記) |
3)ウランガラスから出てくるのは、どんな放射線ですか? |
以前から、ウランガラスから出てくる放射線について、気になっていたので、放射化学の教科書を引っ張り出して、勉強しました。30年以上前に、三宅千枝先生の講義で使った物です。(「核化学と放射化学」丸善出版)
1)まずは、ウラン238から。
ウラン238 (半減期45億年、アルファ崩壊) |
⇒ | トリウム234 (24日、ベータ崩壊) |
⇒ | プロトアクチニウム234 (1分、ベータ崩壊) |
⇒ | ウラン234 (25万年、アルファ崩壊) |
放射化学の教える所によれば、物質の放射能は、原子数に比例し、半減期に反比例します。さらに、親核種の寿命より娘核種の寿命が短い時(上のような例)では、いわゆる「放射平衡」が成立し、親と娘の放射能は同じ値になります。上のケースでは、母親と、娘と、その孫娘がいるので、結局、U238原子1個が崩壊する時に、ベータ崩壊を2回する、即ち、ベータ線(電子)が2個出る、ということになります。45億年に比べれば、24日や1分は一瞬ですから、ウランから直接ベータ線が出ていると言ってもいいでしょう。
2)ところで、ウランにはU235が0.7%含まれているので、こちらについても調べて見ました。
ウラン235 (半減期7億年、アルファ崩壊) |
⇒ | トリウム231 (26時間、ベータ崩壊) |
⇒ | プロトアクチニウム231 (3万年、アルファ崩壊) |
こちらは、U235が1回崩壊する度に、1個の電子(ベータ線)が出るということになります。但し、「物質の放射能は、原子数に比例し、半減期に反比例」という法則で考えると、原子数密度が140分の1で、半減期寄与が7倍、というのを考慮しても、U238より1桁放射能が小さいということになります。
3)さらに、天然ウランにはU238と、U235のほかに、U234が0.0056%含まれています。量はU235の1/100ですが、半減期が25万年なので、次のように、放射能はU235よりずっと大きいのです。。
ウラン234 (半減期25万年、アルファ崩壊) |
⇒ | トリウム230 (8万年、アルファ崩壊) |
こちらは、娘各種のトリウム230は半減期が長くて実際は崩壊しないと考えてよく、U234が1回アルファ崩壊するだけ、と考えてよいでしょう。
4)以上より、、「物質の放射能は、原子数に比例し、半減期に反比例」という法則で考えると、
核種 | 天然U中の存在量 | 半減期 | 放射能(天然U1g当たりのベクレル値) | 放射能(娘核種も考慮) |
U238 | 99.3% | 45億年 | 12,000 Bq/g-nat.U | 36,000 Bq/g-nat.U |
U235 | 0.71% | 7億年 | 600 BQ/g-nat.U | 1,200 Bq/g-nat.U |
U234 | 0.0057% | 25万年 | 13,200 Bq/g-nat.U | 13,200 Bq/g-nat.U |
となり、U235の放射能寄与は非常に小さく、U238とU234が同程度となります。さらに、上のベータ線の寄与を考えると、U238は3個(アルファ1個+ベータ2個)に対し、U234はアルファ1個のみなので、結局一番右側の列のように、U238の寄与が全体の7割を占めることになります。
ところで、ウランガラスの記事の中には「最近は劣化ウラン使用だから放射能が小さい」という記載もありますが、劣化ウランはU235とU234が天然ウランの3割になっているので、上のU235とU234の放射能値を3割にしても、全体ではU238の寄与が大きく、2割程度低下するだけです。
また、話は飛びますが、米国が湾岸戦争などで使用した劣化ウラン弾の放射能は「劣化しているから弱い」訳ではありません。単に、U235が天然ウラン(0.7%)より少ない(0.2-0.3%)というだけです。IAEAは「天然ウラン鉱石(各種の娘核種を含む)よりは6割低下する」とHPなどで書いてます。
なお、上のアルファ崩壊、ベータ崩壊は、いずれもガンマ線を出すのですが、そのエネルギーは50KeV程度で、U235のアルファ崩壊のみ200KeVと大きく、検出器の感度によっては、U235の寄与も多少あるかも知れません。
以上をまとめると、ウランガラスでは、ウラン(U238)が崩壊して、アルファ線、ベータ線、ガンマ線のいずれもが出てくる、と云えます。また、ガンマ線は透過力が強いので小さい検出器では測定しにくく、一方、ベータ線は適度な強さである為、測定しやすいと、思われます。(2003年4月、6月)